森沢洋介さんによる正攻法かつ実際に効果も大きい英語学習法(独学法)「英語上達完全マップ」というものがあり,近年次第に有名になってきていると思います。特に「瞬間英作文」シリーズは書店でお見かけになった方も多いのではないでしょうか。
この方法は英語以外の外国語でも有効なのかというと,もちろん有効です。問題はただ,それに適した教材があるかということだけです。
今回は「英語上達完全マップ」をドイツ語学習に応用するにはどうすればよいかということについて,私の経験をもとに,しかし経験そのままではなくあくまで現在の見解を述べてゆきます。幸い,ドイツ語の場合はちょうどよい教材が揃っていますので,それらをご紹介した上で,各教材の使い方もなるべく具体的に詳しく説明します。
なお,この記事では無駄のないように整理して学習法を書きますが,私自身がどのような道をたどったかの話全体ももしかするとご参考になるかもしれませんので,それも別記事にまとめておきました(↓)。反面教師とすべき点のほうが多そうですが。
基本的な文法(と単語)の習得
本格的に「英語上達完全マップ」の核である「音読パッケージ」と「瞬間英作文」に入ってゆく前に,ドイツ語の基本的な文法をひと通り理解・暗記してしまうことが必要です。その過程で,ごく基本的な単語も自然と覚えることができるでしょう。
この段階で用いる教材は何でもよいと思うのですが,私自身は最終的に『関口・初等ドイツ語講座』を使いました。全部で3巻もあるので気軽に手を出せないとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが,語り口が面白いので案外すぐ読み通すことができます。
読み通すだけではだめで,文法を覚えてゆかないといけないわけですが,そのために最適な練習課題もこの『関口・初等』には入っています。それは折にふれて現れる「読本」です。「読本」といいながらまとまった文章ではなくて,短文が並んでいるのですが,この短文集が文法習得に実に適したつくりになっているのです。
どう適しているかというと,語彙がわりと限定されているので文法に集中でき,その代わり同じ文法項目が手を変え品を変え何度も現れるので,徹底した練習ができるのです。また文法だけではなく実は語彙習得に関しても,限られた数の基本的な語が何度も何度も出てくるというのは,それらの語はそれだけ深く頭に刻み込まれるのでかえってよい面もあるといえます。
「読本」の使い方ですが,内容を完全に理解するのはもちろんのこと,意味・文構造を意識しながら音読すること,CDを聴いて音声を真似することは是非行なってください。後者は,リスニングの基礎をつくるほか,少しでもよい発音を身につけるために欠かせません。
文法の徹底的な体得はこの後の「音読パッケージ」と「瞬間独作文」で行うわけですから,この段階では何十回と音読したりする必要はありません。ある程度のスピード感を持って進み,とにかく最後まで行ってしまいましょう。
ただし,冠詞や形容詞の格変化表,動詞の活用表といったものはきちんと覚えてください。これは一度意識的に暗記しないと,自然にはなかなか身につきません。そして,特に冠詞や形容詞の格変化は完全・精確に覚えていないと,本当に,ドイツ語は読めません。
文法の理解度を試すための「定期試験」がついていますが,これも解くことをお勧めします。正答できなかったものには印をつけておき,spaced rehearsalなどの復習法(↓)を用いてよく復習します。なお「読本」や格変化表などもすべてspaced rehearsalあるいはそれに似たシステムで復習するとよいでしょう。この復習は,『関口・初等』の初回の学習が最後まで終わって次の教材に入ってからも,かまわず続けます。
基礎レベルの語彙力の強化
この後に行う「音読パッケージ」トレーニングでは,使用するテキスト自体の理解には苦労しないのが望ましいですから,文法だけでなく語彙の面でもなるべく不安のないようにしておくのがよいといえます。
ここで用いる教材としては,森泉/ハンス・ヨアヒム・クナウプ『新 独検対策4級・3級必須単語集』をお勧めします。 英語でいう『DUO』のように,1つの例文に複数の新たに学習すべき単語が含まれているというのが大きな特長です。
例文を用いて覚えてゆくタイプの単語集ですから,初等文法と同時進行ではなく,あくまでそちらがひと通り済んでから使いましょう。特に「3級」対応の部分は,語彙だけでなく文型も3級レベルですから,そうしないと読めません。
和訳を見てもとの独文を再生するというのが最も強力な使い方でしょうが,ここであまり負荷をかけなくてよいと思います。例文の意味を完全に理解して,音読したりCDの音声のリピーティングをしたりすれば十分でしょう。
音読パッケージ
「音読パッケージ」トレーニング(音読とリスニング練習を一つにしたトレーニング)に用いる教材としてお勧めしたいのは,フランク・リースナー/矢羽々崇/能登慶和『ゆっくりだから聞きとれる! ドイツ語がわかるリスニング』です。テキストの長さと難易度の点でちょうどよいだけでなく,内容がドイツ事情なので,背景知識をつけるにも適しているのです。
トレーニングのしかたですが,これは基本的な流れとしては森沢さんがお書きになっている通りです。まとめますと,
- テキストの意味を完全に理解する
- テキストを見ながらのリピーティング(音声を1フレーズ~1文聴いたところで再生を止め,真似して発音すること)を5回
- 音読を15回
- テキストを見ないでのリピーティングを5回(難しかったらテキストを見てもよい)
- テキストを見ないでのシャドーイング(音声をポーズなしで再生し,少しだけ遅れて真似して発音してゆくこと)を5回(難しかったらテキストを見てもよい)。
どのステップでも,ただ声に出すだけでなく,意味と文構造を意識します。このようにしてテキストを合計30回声に出したら「第1サイクル」が完成,とされています。それでしばらく進んだらまた戻ってきて第2サイクルに入り,以降何サイクルか回すのですが,サイクルを重ねるたびに声に出す回数を少しずつ減らしていってよいということです。
この第1サイクルでの「合計30回(以上)」という回数は厳守するようにとwebページ上にはありますが,森沢さん自身による音読パッケージ用教材『みるみる英語力がアップする音読パッケージトレーニング』を読んでみますと違うことが書いてあります。
- テキストを見ないでのリピーティングができるようになるのが目標であり,それができるようになるのに必要な回数がすなわち適正回数である(p. 26)
- つまり30という数字にこだわる必要はない。ただ,第1サイクルの段階でテキストを見ないでのリピーティングができるようになるに至らない人は,とりあえず合計30回やっておこう(pp. 26-27)
- 音読のとき,1文(1センテンス)をさっと見て目を離して言うということができるようであれば,回数はずっと減らしてかまわない(p. 25)
とのことです。Webページよりも書籍のほうが後に書かれたものですから,こちらに従えばよいでしょう。それから,上述のような1サイクルに入る前に行うべきこととして,
- 「先行リスニング」(pp. 14-17)
- 「聴き解き」(pp. 17-20)
が指示されています。
「先行リスニング」は,そもそも音読パッケージトレーニングに入る前に,これから学習してゆこうとするテキスト全体(CD全体)をまず何度も通して聴くというものです。「もう音声だけではこれ以上わからないという段階に至るまで数日間続け」よと書かれています(p. 17)。
「聴き解き」は1テキストごとに行う作業です。1センテンスあるいは1フレーズくらいずつ聴いては,音声と文字との対応を確認してゆく作業だそうですが,これは私自身は行いませんでした。そもそもドイツ語というのは,リンキング(リエゾン)が原則として行われないなど,音声と文字との対応が英語の場合よりはるかに分かりやすい言語ですから,実際このステップはあまり要らないようにも思います(のでこれ以上詳しいことは割愛します)。
『ゆっくりだから聞きとれる! ドイツ語がわかるリスニング』では,各章(Kapitel)がいくつかのセクションに分かれていますが,章全体ではなく1セクションずつに取り組んでゆくとよいでしょう。そうすると,1回のテキストの長さが森沢さんの『みるみる英語力がアップする音読パッケージトレーニング』の場合とだいたい同じになります。
最後に正直に言いますが,私自身は音読パッケージについては中途半端あるいは自己流に行なってしまった部分もけっこうありました。何度も音読するより暗唱してしまったほうがよいのではないかと思い,実際そうしたこともありました(そしてあくまで私の感覚ですが,それも効果があったと思います)。とはいえ,音声を(時に高速再生で)聴いたりシャドーイング/リピーティングしたりといったことはそれなりによく行いました。復習サイクルについてはきちんと管理していた覚えがありません。
なお私は,初めのうちは『関口・初等ドイツ語講座』の「読本」で音読パッケージを行なっていました。しかし,音読パッケージは本来,切れ切れの短文ではなくそれなりにまとまった内容を持った文章で行うものですから,これはお勧めしません。
瞬間独作文
音読パッケージのことを先に書きましたが,瞬間独作文には音読パッケージが済んでから取りかかるべきだ,という意味ではありません。同時進行でもよいですし,先に瞬間独作文だけ済ますこともできます。
森沢さんによると,瞬間英作文トレーニングには3つのステージがあります。第1ステージは,文型(文法項目)別にトレーニングすることで,型を身につける段階。第2ステージは,文型の出題順をバラバラ(ごちゃごちゃ)にすることで,何が来ても反射的に英文を作れるように訓練する段階。第3ステージは,より高度な表現を身につけてゆく段階,です。
これらのうち,私が瞬間独作文で意識的に行なったのは何といっても第1ステージであり,第2ステージは行わず,第3ステージはパラパラと今も行なっている,というところです。既にドイツにいたので,第2ステージは普段の生活がそれなりに代わりになったのだろうと思います。ただしこのステージの訓練もしようかと検討していた時期があり,その際用いようかと思っていた(そして購入もした)教材については後ほど記します。
第1ステージの教材は森泉『しっかり身につくドイツ語トレーニングブック』で間違いありません。問題と解答が見開き2ページに並んでいないことだけが惜しまれますが(本来は書いて作文するための問題集ですから,まあ仕方がありません),その他の点ではこの本は瞬間独作文第1ステージに素晴らしく適しているといえます。
どういう点でよいかというと,
- ほぼ全部が和文独訳問題である
- どれも短文である
- 単語が基本的なものに絞ってある
- 十分な量の問題がある(これ1冊でまず足りる)
- 作文すべき独文がなるべく一義的に分かるように工夫されている(複数の可能性があるときにどれを選べばよいか指示してあったり,日本語としての自然さをやや犠牲にしてでも対応するドイツ語を連想しやすい問題文にしてあったり)
というところです。
使い方は単純で,問題を見て口頭で和文独訳し,直ちに巻末の解答(何ページに載っているかは各「練習」のはじめに書いてあります)を見て答え合わせ,です。これを1問ごとに行います。当然ですが,次の問題の答えを見ないよう気をつけましょう。答え合わせしたら,よどみなく言えるようになるまで何度か繰り返し口にします。その場限りでよいのでそらで言えるくらいにするのが望ましいですが,絶対ではありません。
何度か繰り返し口にするとき,ついなるべく速く読もうとしてしまうかもしれませんが,そうではなく,頭がついてゆける速度(今発音している語で自分が何を言っているのか意識できる速度)で話すようにしましょう。口が動くだけでは本当の力にはならず,頭が(最終的には速く)働くようにしなければならないのであり,そして最終的に速くできるようにするためには,まずは今可能な速度まで落としてやるのが近道であるからです。ちなみにこれは楽器の練習でも同じです。
このとき,初見の段階であまり時間がかからずにかつよどみなく言えて,しかも正解したものには○をつけておき,以降の復習対象から外します。あくまで「初見の段階で」ですのでご注意ください。初見のときうまくゆかなかったものは,2回目以降どんなによくできても,通常通りに復習してゆきます。
時間がかかったりつっかえたりしたけれどきちんと作文できたものと,正しく作文できなかったものとは,扱いを分ける必要がありません。いずれも等しく復習します。
問題文の中で,多くの単語のドイツ語の形がヒントとして示されていますが,この本に出てくる単語はどれも覚えてしまったほうがよいレベルのものですので,基本的には修正テープなどで消したほうがよいでしょう。ただし,ある日本語単語に対して複数のドイツ語単語が考えられる場合は,無駄に模範解答との不一致を起こすことを避けるため,ヒントを残しておいてかまいません。
森沢さんの瞬間英作文では,10文学習したらいったん戻り,その10文全部を通してすらすら言えるように練習することになっています。われわれの瞬間独作文でも同じようにするとよいでしょう。厳密に10文ずつである必要はなく,きりのよさに応じて8文でも15文でもよいのですが,ある程度進んだら戻ってもう一度,ということをするだけで,反応速度が上がるだけでなく記憶の定着がよくなりますので,是非行なってください。
このようにして気の向くところまで進んだら,できればそのとき学習したもの全部をもう一度通しておくと,後でスラスラ言えるようになるのが早いです。
これで1回分の学習が終わりとなります。学習を終わりにしたところに印をつけておき,学習を始めたページに日付を書きましょう。以降,復習のたびにそのページに復習日を書き込んでゆきます。
復習法についてはここでもspaced rehearsalをお勧めします。これは森沢さんが提示していらっしゃる方法とは異なるので,既に瞬間英作文トレーニングをよくご存じの方は疑問に思われるかもしれませんが,私自身がこの方法を採り,十分な効果を得ました。この点について詳しくは,次の記事をお読みください。
実際にこの方法で復習するには,復習法についての記事でもご紹介している “Anki” というソフトを用いるのが便利です。あるページを新規に学習したら,そのページ番号をカードに登録しておくわけです(表面に書き,裏面は使用しません)。あとは,毎日1回Ankiを見るようにすれば,復習すべきタイミングになったらカードが出てきますので,それに従うだけです。
復習していて間違えてしまった問題は,その問題だけをAnkiのカードにして(通常通り,表に問題を,裏に答えを書きます),別個に復習するようにします。教本のほうには「→Anki」とでも書いておき,そのページ全体の復習のときにはその問題は飛ばすようにします。
次に,私自身は意識的には訓練しなかった第2ステージについてですが,上述の通り,このステージの学習に適していると思われる教材を購入するところまでは行いました。それは宍戸里佳『大学1・2年生のためのすぐわかるドイツ語 読解編』と久保川直子(編著)『独検4級3級 長文の完全攻略』の2つです。
いずれもここでは通常の使い方(ドイツ語テキストを読んだり,それに基づいて問題を解いたり)をせず,訳文からドイツ語の文章を再生することを試みます。
今改めて両者を見て,実際に少し瞬間独作文もしてみました。その限りでの粗い評価になってしまいますが,それぞれの特徴を挙げます。まず『大学1・2年生のための……』については,
- 1つ1つのテキストが短い
- 全体が1つのストーリーになっているので,続ける気が起きやすい(かもしれない)
- 時々,基礎レベルから外れた単語が出てくる
というところであり,最後の1点がやや大きなデメリットになろうかと思います。『独検4級3級 長文の完全攻略』のほうは,
- 1つ1つのテキストはやや長い(音読パッケージトレーニングの1ユニット程度)
- 多様なテキストが入っている(手紙文や会話文もある)
- (全部見て確かめたわけではないが)どうやら語彙レベルはだいたいちょうどよい
- 一部が穴埋め問題になっているテキストがあるため,それは模範解答を利用して先に埋めてから利用する必要がある
ということで,最初に一手間かかるもののあとはまあ無難かと思いますので,こちらをお勧めしたいと思います。
穴埋め問題になっているテキストの穴を埋めてゆくとき,当然テキストを見ることになります。これが記憶に残ってしまうと瞬間独作文としての効果はその分なくなることになりますから,そういう問題に当たるたびにこの作業をするのではなく(そうすると,テキストを見た直後に瞬間独作文することになってしまいますから),この本を入手したら最初に1冊全部について済ませてしまうのがよいでしょう。
第1ステージさえ終われば一応基礎はできている(あとは演習しさえすればよい)わけですから,第2ステージに進む代わりに,何らかのオンラインサービスなどを利用して実際にドイツ語を話す練習をしてしまうというのもよいかもしれません(逆に,第1ステージの初回学習が一通り終わらないうちにそうすることはお勧めしません)。
もちろん両方行えば最高です。私自身は意識的な第2ステージの訓練をするのでなく実際にドイツ語を話すという道をたどったわけですが,第2ステージ用として上に挙げた教材でいま瞬間独作文して模範解答(つまり元のドイツ語テキスト)を見ると,「なるほど,こうも言えるのか」「確かにこのほうがすっきりしているな」などと,基礎レベルの教材にもかかわらず勉強になります。
というわけで,実践にいっそう直接結びついているのは会話練習ですが,このように表現を洗練されたものにしたり幅を広げたりするためには,本を用いての学習のメリットにも無視できないものがあると思います。
中級レベルの語彙力の強化
瞬間独作文の第1ステージの初回学習が一通り終わったら(第2ステージまで一通り済ませてもよいですが),再び語彙力強化に取り組み始めるとよいでしょう。ここでは是非ともお勧めしたいというほどの本はないのですが,とりあえず在間進・亀ヶ谷昌秀『新・独検合格単語+熟語1800』は使えます。
まず第1章に出ている単語に抜けがないかどうか確認し,怪しいものはAnkiのカードにします。表に日本語,裏にドイツ語を書き,ある日本語単語に対して複数のドイツ語単語が考えられる場合は,ドイツ語単語の最初の1字をヒントとして書いておくなり,「~ではない語で」などと指示しておくなりします。
例文がついている単語は例文ごとカードにします。つまり瞬間独作文の問題のようにするわけです。
第1章の「差が出る熟語」のところに出ているものは多くが未習だと思いますので,初めからAnkiカードにするのでなく,レイアウトのせいで少しやりづらいですが,独文を紙片でうまく隠したりしながら本自体を用いて瞬間独作文してゆくほうが効率的でしょう。
ここでは左側のページは無視し,例文の習得に集中します。例文なしで抽象的に熟語を覚えようとすると,やけに頭に入りづらいからです(少なくとも私の場合そうです)。
あとは第2章・第3章も同様に学習します。
さらに語彙力をつけたい方には,Anki用に公開されている次のカード集をお勧めします。
読解の訓練(1)精読
構文的にレベルが高めの文章を精確に読んでゆく訓練で,英語でいう『英文解釈教室』シリーズ(伊藤和夫)などに相当する教材を用いることになります。
私自身は,ドイツ語ではこの訓練はあまり行いませんでした。「英語上達完全マップ」を応用してのドイツ語学習を実践していたころにはドイツに既に留学しており,目の前の(音大での)勉強の中で読まざるを得ないもの・読むことを課せられたものを読んでゆくうちに少しずつ読解力がついていった,という形になりました。
本当はまずよく練られた教材を用いて読解訓練をしたかったですし,もし実際にそうしていればもっと効率よく力がついたのではないかとも思います。
しかし,あるいはこういうことも言えるかもしれません。私はドイツ語でこそあまり精読訓練をしませんでしたが,その前に(日本での,音大ではない普通の大学の)受験生のときに英文解釈・英文読解の訓練はかなりしっかりと行いましたので,ヨーロッパ言語の文構造を把握して精確に読む力はもともとついており,それがドイツ語にも生きた可能性がある,と。
そうであれば,ほかのヨーロッパ言語でこのような訓練をあまりなさったことがない方には,ここで独文解釈・ドイツ語精読の訓練を意識的に行うことをいっそう大いにお勧めしたい,ということになります。
これには定番の本が2つありまして,それは阿部賀隆『独文解釈の研究』と横山靖『独文解釈の秘訣』です。まずは前者を用いるのが普通であるようです(そして,前者だけでよいのではないかと思います)。
このような教材では,本来は自分で訳文を作成することが想定されているのだと思いますが,そうする必要はありません。ただごまかさず精密に読んで(分からない単語・熟語があれば辞書も引いて),解説や模範訳を見て自分の読みが正しかったかどうか確かめ,最後に何度か意味と文構造を意識しながら音読する,これで十分です。
ただし,どうも頭がこんがらがるというような場合は,その一文だけ訳すのはよいと思います。それから,訳すことが悪いと言っているわけではありませんので,全訳なさりたい方は全訳なさってももちろん大丈夫です。
解説に書いてあることのうち,学ぶところがあった部分には線を引いておきます。
復習のときは,意味と文構造を意識しながら音読し,あと解説のうち線を引いた部分をさっと読み返します。復習間隔についてはやはりspaced rehearsalあるいはそれに近い何らかのシステムを用いるとよいでしょう。
読解の訓練(2)多読
精読訓練をある程度積んだら,今度は量をこなします。なるべくストレスなくすらすら読めるとよいので,用いるテキストは自分の実力より少し下のレベルのものがよいです。
この訓練のための教材は,レベルさえ適切であればもちろん何でもよいのですが,例えばHueber社から各レベルの学習者に合わせた読み物が出ており,PDFのダウンロードという形でも購入できます。あと,音声もMP3で手に入るようです。
ここまで来られた方でしたらB1レベルのものをお読みになればよいかと思いますが(B2レベルのものはほんの少ししかありません),量をこなすのが目的ですから,A2レベルのものも用いてよいでしょう。そちらのほうがたくさん出版されていますし。
終わりに
以上,私なりの「ドイツ語上達完全マップ」を描いてきましたが,日本国外にいるためなかなか日本で出版された本を気軽に見ることができないこともあり,私の知らないドイツ語教材もいろいろあります。今後それらに触れ,よいものに出会うことがありましたら,そのたびにこのページの内容を改めてゆくか,あるいは補足記事を書いてゆくつもりです。
最後になりましたが,素晴らしい外国語学習法「英語上達完全マップ」をまとめ,公開してくださった森沢さんに心から感謝したいと思います。これに出会ったことで,私自身,異国での学業と仕事,それに生活全般の質がどれほど上がったか分かりません。言葉がよくできることはやはり本当に大切ですから。
この方法の素晴らしさは出会ったときから直感しながらも,ドイツ語学習に応用するにあたっての教材の選択,復習法についてなど分からないことや戸惑いがあって悩んでいたおよそ7年前を思い出します。本稿が今同じような悩みを抱えていらっしゃる方の目にとまり,お役に立つことがありましたら,嬉しく思います。
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